2020年6月、東京・新橋のレストラン「ボワ・ヴェール」の灯りが消えた。
オーナシェフのカズさんは、まさに天才肌の料理人だ。ボクたちが長く活動を続けているNPO「伝統肉協会」の理事としてもお世話になっていて、皆さんの中にも食べた人がいると思う猪鹿合挽きの「マタギナルドハンバーガー」のミートパティの美味しさも、カズさんの的確なアドバイスに支えられていた。
伝説の「クラブニュクス」料理長から、いまは「トレフミヤモト」のオーナーシェフとなっている宮本雅彦さんに師事した本格派だが、その一方では「元は大阪のケンカ番長」とか「フランス修行から外人部隊を目指していた」とか、いろいろと型破りなカズさん。そんなカズさんが「青森の食材とフランス料理の融合」を実現したのが、この「ボワ・ヴェール」だった。そこでカズさんは、フルレザーでオーダーしたスタッズだらけのサボを履き、トゥックにダチョウの羽を飾りながら、ドラァグクイーンだらけのパーティを主催したり、祝いのイベントに「肉ケーキ」を出したりしていた。

そこでボクらは、毎年の「狩猟肉オンリー」なクリスマスパーティを開催させてもらっていた。初めてハクビシンを食べたのも(しかも美味しかった!)この店だったし、青森が世界に誇るべき珠玉のクッキングアップル「はつ恋ぐりん」を知ったのもこの店だった。大鰐温泉の地熱が支える室育ちのすっごい土耕もやしとか、いまのところ自分史上ベストな熟成のキジとか、書き出したら止まらなくなるほど、さまざまに美味しい体験をさせてもらった。
そんなカズさんが倒れたのは、1月のことだった。
詳細は控えさせていただくが、なんとか急性期を脱したカズさんは、いまも回復期のリバビリテーションと向き合っている。もう10年以上も前のことになるが、このリハビリテーションがタフなものであろうことは、杖を使うようになった自分としては、痛いほどよくわかる。早期の復帰が叶わなかった状況では、長く、苦しい闘いが避けられないわけだ。そして、そこに逃げ場はない。転んでも、転んでも、立ち上がって闘い続けるしかない。
そして、当然ながらクローズしていた「ボワ・ヴェール」だが、現時点では再開のめども立たず、折からのコロナ自粛な状況もあり、この6月いっぱいで撤退する、ということになってしまったわけだ。
その最後に、長年のファンが集まって「ボワ・ヴェール」を見送ろうと、残されていた食材をふんだんに使いきった贅沢な感謝祭が、ひそやかに開催された。料理を担当してくれたのは、カズさんの薫陶を受けたこともある「Foodist Link」の高田大雅シェフ。シカやイノシシを中心とした多彩なメニューがずらりと並び、最後にはゲストがめいめいに好みの器を持ち帰ったり、アンティークなピアノの引き取り先を考えたり、エントランスで飼われていた金魚たちが里親を見つけたり、そんな夜だった。
これ、ここに書いたからって、状況は変わらないんですけどね、書いておきたかったんです、少しだけ。ブログを開設した途端に泣ける話になっちゃうのもどうかな、とは思ったんですが……。
でも、待ってるからねカズシェフ。
